medical column メディカルコラム|産婦人科医が解説する 生理痛の原因と対処法
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- 生理痛、ガマンしていませんか?
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現代の女性は一生で「約450回」生理をむかえると言われています。実はこの生理の回数は、昔と比べて「9倍」も増えているのです。妊娠・出産の回数が減ったことで、今の私たちは昔に比べて、生理の回数が多くなりました。その結果、生理痛や、女性特有の病気に悩む人が増えてきています。

生理痛は、限界までガマンするのではなく、早めにケアや治療することが大事です。生理痛を軽くすることは、将来の健康にもつながります。痛みの感じ方には個人差がありますが、「他の人がガマンしているから、私もガマンしなくちゃ」と思うのではなく、「痛い」と思ったら薬を飲むようにしましょう。痛み止めについては後ほど詳しくお伝えします。また、薬だけではなくセルフケアもあります。生理痛の仕組みやケアを知って、毎月を快適に過ごしていきしょう。
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- 【生理痛のしくみと痛み止めとのつきあい方】
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生理の不調は「腹痛、腰痛、頭痛、お腹が張る、疲れやすい、気持ちが悪い、脱力感、食欲がない、いらいら、下痢、憂うつ」などがあります。
このような不調の原因は、生理の時に産生される「プロスタグランジン:PG」の作用によるものです。プロスタグランジンが、子宮の筋肉を強く収縮させ子宮の血流が低下することで腹痛がおこります。また、血管や腸を収縮させて、頭痛や下痢を起こします。
痛み止め(鎮痛薬)は、このプロスタグランジンが作られるのをブロックしてくれます。痛みの原因となる筋肉の収縮をやわらげ、子宮の血流を促します。薬は痛みが強くなるギリギリまでガマンするのではなく、痛み物質が作られる前に薬を飲むことが大事です。痛みを感じたら早めに痛み止めを服用しましょう。
生理痛の痛み止めにはNSAIDs(非ステロイド抗炎症薬)が有効で、市販の痛み止めの成分には、アスピリン、イブプロフェン、ロキソプロフェンなどがあります。
市販の痛み止めの中には、眠くなる成分や胃を守る成分が入っているものがあります。また、15歳未満のお子さんは、大人と同じ成分の薬ではなく、アセトアミノフェンを使います。薬剤師さんと相談の上、自分にあったものをみつけてみましょう。
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- 婦人科での診察
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生理痛が強い場合、子宮筋腫や子宮内膜症、子宮腺筋症などの病気が原因のことがあります。また、病気ではない場合でも、生理痛を和らげるための治療を受けることもできますので、薬を飲んでも痛みがつらい方やどんどん痛みが強くなる方は、一度婦人科で診察を受けてみましょう。
婦人科では、内診や経膣超音波検査で子宮や卵巣のチェックをします。これらは膣からの検査になります。性交渉の経験のない方は、お腹の上からの超音波検査やMRI検査、血液検査で診断することもできます。婦人科の診察が苦手な方は、前もって看護師さんや医師にその旨をお伝えください。
また、会社の健康診断で「子宮頸がん検診」を受ける場合、オプション検査にある「経腟超音波検査」を申し込むと、卵巣や子宮の病気のチェックができます。今、生理痛がない方でも一度チェックしておくと安心です。
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- 生理痛などの症状で日常生活に支障をきたす、月経困難症二つのタイプ
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ここまで生理痛について話しましたが、生理痛などの症状で日常生活に支障をきたす場合、「月経困難症(げっけいこんなんしょう、月経=生理)」といって治療が必要になります。
生理の不調、月経困難症には二つのタイプがあります。診察で原因となる病気がみつからない場合を「機能性月経困難症」、子宮筋腫や子宮内膜症、子宮腺筋症などの病気がみつかる場合を「器質性月経困難症」といいます。
【機能性月経困難症】
・初潮開始後、半年~1年から始まることが多い。
・10代後半から20代前半に多い。
・生理の1~2日目に強い痛みがおこる。
・年齢があがったり、妊娠出産によって症状が軽くなる。
・治療は薬物療法や不安の軽減【器質性月経困難症】
・初潮後10年前後から始まる。
・20代から40代に多い。
・生理中だけではなく、生理以外の時も症状がある。
・原因となる病気(子宮や卵巣、骨盤の疾患など)がある。
・治療は痛みに対する治療と、病気の治療。診察で病気がみつからなかったからといって、治療の必要がないわけではありません。特に10代20代で病気がない場合でも、将来、内膜症などの病気に進む場合もあります。痛みがつらい場合は、ぜひ痛み止めやセルフケアで痛みを軽くしていきましょう。
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- 生理痛の治療
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生理痛の治療には、薬で痛みをとるもの、生理をコントロールするもの、外科治療などがあります。一つの治療だけではなく、時にはいくつかの治療を併用することで痛みが軽くなります。
≪痛み止め≫
市販の薬以外に、病院で処方される痛み止めの成分として、ジクロフェナクナトリウム(薬剤名:ボルタレン)、インドメタシン(薬剤名:インダシン座薬)、メフェナム酸(薬剤名:ポンタール)、ナプロキセン(薬剤名:ポンタール)などがあります。市販の痛み止めが効かない場合は、病院で自分にあった薬を処方してもらいましょう。何より、痛みはガマンせずになるべく早くに痛み止めを飲むことが大事です。痛み止めを飲むこと=治療であり将来の病気を予防することなのです。≪機能性月経困難症の治療≫
薬物治療がメインで、痛み止めの他には次のような治療で生理痛を軽くしたり出血の量を減らしたりします。
・低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬:LEP
(ヤーズ®、ヤーズフレックス®、ルナベル®LD/ULD、フリウェル®LD/ULD、ジェミーナ®)
・漢方薬(芍薬甘草湯、当帰芍薬散、加味逍遙散,桂枝茯苓丸,桃核承気湯,当帰建中湯など)
・抗コリン剤(ブスコパン®)
・レボノルゲストレル放出子宮内システム:LNG―IUS(ミレーナ®)は子宮の中に挿入するものです。また、不安が痛みと関係していることもあるので、不安をのぞくためにも正しい情報を知ることが大切です。
≪器質性月経困難症の治療≫
生理痛の原因となる、子宮筋腫、子宮内膜症、子宮腺筋症についての治療法は次のようなものがあります。薬物治療としては、痛み止め、低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬:LEPや、
ゴナドトロピン放出ホルモン:GnRH 製剤(点鼻または注射)により生理を止める
(アゴニストでは、スプレキュア®、ナサニール®、リュープリン®、ゾラデックス®、アンタゴニストではレルミナ®)ジエノゲスト(ディナゲスト®)内服
レボノルゲストレル放出子宮内システム:LNG―IUSなどがある。外科的治療としては、子宮鏡手術、子宮筋腫核出術(腹腔鏡下、開腹)、子宮全摘術、子宮動脈塞栓術(UAE)、マイクロ波子宮内膜アブレーション(MEA) がある。
それぞれの症状、ライフステージ、病気の程度によって治療方法も違います。婦人科で先生と相談の上、ご自分にあった治療を選んでみてくださいね。
次からは生理痛の原因になる病気について、多くみられるものについて解説します。
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- 子宮筋腫について
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良性の平滑筋(筋肉)の腫瘍(こぶ)で、女性の20~30%にみられる病気です。筋腫のできる場所(粘膜下、筋層内、漿膜下)によって、症状の出やすさも違います。生理痛や生理の量が多くなる、生理が長引くなどの症状をおこします。女性ホルモンの影響で、生理があるうちは、サイズが大きくなったり数が増えたりします。
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- 子宮内膜症について
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子宮の内膜(生理の時にはがれおちてくる部分)が本来の場所以外で増殖し、生理のたびに出血をくりかえすもの。卵巣にできたものが「チョコレートのう胞」。子宮の周りや卵管、肺や腸にできることがある。癒着による痛みや不妊症の原因にもなる。


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- 子宮腺筋症について
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子宮の筋肉の中に、子宮の内膜が浸潤し増殖したもの。生理の時に出血を起こす。下腹部痛、性交痛、子宮の増大による圧迫症状をおこす。
今回ご紹介した病気以外にも、子宮の形の病気、卵巣の病気、骨盤の炎症などでも生理痛が起こります。つらい生理痛は放置せずに婦人科を受診し、きちんと診断してもらうことで治療につながり、痛みを軽くして生活の質を向上していきましょう。
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- セルフケア
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ここからは生理痛を和らげるセルフケアをいつかご紹介します。体調と相談しながら、あなたに合ったものから試していただければと思います。
生理痛のセルフケアの基本は、「血液の循環を良くすること」。それにはいくつかの方法があります。
まずは、身体を動かすこと。生理中は体を動かすことをためらいがちですが、ストレッチやウォーキングといった軽い運動は、全身の血行がよくなるだけでなく、リフレッシュにも効果的です。ただし、ご自身の体調を第一に、無理をしないようにしてください。また、血行を良くするために、お腹や腰を温めるのもおすすめです。ひざ掛けや毛布をかけたり、腹部用の温熱シートを貼るのも効果があると言われています。足浴(洗面器などにお湯をため足首まで入れる)も血行が良くなる方法の一つです。
他には、生理痛に効くツボもあります。いわゆる丹田と呼ばれる「関元(おへその指4本分下)」は、下腹部を温めるツボとして有名です。また、「合谷(手の甲側の親指と人差し指のちょうど分かれ目にあるくぼみ)」は、生理痛だけでなく肩こりや眼精疲労にも効果がある「万能のツボ」と言われています。どちらもやさしくゆっくり押してみましょう。
次に食事へのケアも大切です。低脂肪食、ラクトフェリンの摂取、ビタミンEを含むサプリメント、禁煙やアルコールの制限、血液の循環を悪くするタバコやアルコールの摂取は、特に生理期間中はおすすめしません。節度ある量を心がけてください。
また、生理中は、痛み以外にも、いつも以上にイライラしたり落ち込んだりとすることもあります。そんな時はアロマテラピーもおすすめです。日本アロマ環境協会(AEAJ)の研究によると、生理中にラベンダーオイルを用いて下腹部をマッサージしたところ、痛みが軽減したとの結果が出ています。アロマオイルはリラックス効果や睡眠の質を改善する効果もあります。好きな香りで生理期間を少しでも快適に過ごせるといいですね。
「生理は心身のバロメーター」とも言われるように、生理痛は、ストレスや不安、睡眠不足でもひどくなります。リラックスすること、そして周りに相談したり、生理のタイミングをみながら仕事や予定を調整したりすることで、安心して生理を迎えられるようにしてみましょう。
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- 最後に:生理の悩みは社会全体の課題
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働く女性の健康に関する実態調査」(2004年女性労働協会)によると、生理痛(月経痛)のある女性は全体の76.5%、さらに、生理痛がかなりひどい(薬を飲んで会社を休む)女性が2.8%、ひどい(薬を飲めば仕事ができる)女性が25.8%いると報告されています。多くの女性が生理痛の症状があると答えています。また、生理に随伴する症状による労働損失を年間6,828億円と算出する(田中ら、2013年)報告もあります。
生理痛のような体調不良は症状のある人の問題として捉えがちですが、実は、社会全体で取り組むべき課題だと言えるのではないでしょうか。女性がいきいきと活躍できる社会は、男性にとってもそうであるはず。個人の問題、女性の問題として片づけず、社会全体で取り組んでいくこともこれからの社会には重要なことだと思っています。症状のある人もない人も、女性も男性も、みんなで考えていけたらいいですね。参考文献
・産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編2020 日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会
・女性の健康包括的支援のための診療ガイドブック 日本産科婦人科学会
・月経困難症 日本産婦人科医会 研修ノート
・産科と婦人科 2018年11月vol.85 No.11 診断と治療社
・産科と婦人科 2022年12月vol.89 No.12 診断と治療社
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- プロフィール
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関口真紀 産婦人科専門医/医学博士
公立病院で研修後、大学病院でガンの患者さんの治療を担当。出産後は健診クリニックに勤務し、年間6000人以上の子宮頸がん検診を担当。産婦人科医としての26年のキャリアをいかし、SNSなどで、生理痛・生理前のイライラ・更年期について、そのしくみやセルフケア、治療法について発信中。女性の様々な悩みを聞き、その対処法を伝えている。婦人科お悩みトリセツ主宰。
インスタ @sekiguchi_fujinkatorisetsu